長雨が上がり、雲間からやわらかに注ぐ陽射しのなかで、どこからか口笛が聴こえる。見上げると、街路樹の枝先には空に歌う小鳥がいた――。ジャケットからそんな風景まで見えてしまうのが、このカイン・リンのアルバム、「雨に歌うツグミ(Hoa Mi Hot Trong Mua)」だ。
伸びやかな高音美しい歌手である。2004年発表の1stアルバム、タイトルナンバー「雨に歌うツグミ(Hoa Mi Hot Trong Mua)」は、愛を風景に折り込み、その詞の美しさで評価の高いズォン・トゥ(Duong Thu)が手がけたもの。
他に「四月(Thang Tu Ve)」、「春の息吹(Hoi Tho Mua Xuan)」、「さようなら(Tam Biet)」など、聴き手の心にやさしく染み渡る作品が詰まっている。
流行を意識したアレンジも、奇をてらった仕掛けもなし。ただ自分の声で歌う彼女。周囲の流れにとらわれず、自分のスタイルにこだわった、正統派ベトナムポップスの一枚である。
ちなみにベトナムでひところポップスの歌詞によく登場し、アルバムタイトルにも出てくる、「ツグミ(Hoa Mi)」とは、ガビチョウ(画眉鳥)のこと。北部や北中部に生息し、さえずりが美しいことから鑑賞鳥として親しまれている。
カイン・リン(Khanh Linh)
1983年生。伝統楽器ダンバウ(独弦琴)奏者の父と歌手の母を持つ。兄はこのアルバムにも楽曲を提供している作曲家ゴック・チャウ(Ngoc Chau)で、まさに音楽一家で育った彼女。
小さな頃から音楽に親しみ、4歳の頃にハノイ音楽院のピアノ科(初等科)で学びはじめ、その後声楽科に移る。20代前半という若さだが、すでに結婚、1児の母である。
「仕事のために私生活を犠牲にしたくない」が持論で、オーソドックスにまとめた1stアルバムは、自分の道を自分の速さで歩いていきたいという、強い意志から生まれたのかもしれない。
今年2枚目のアルバム「蒼い朝(Ban Mai Xanh)」を発表、さらなる活躍が期待される若手の一人だ。