狭い橋を、こっちから黒ヤギ、あっちから白ヤギが渡ろうとしている。どちらも譲らず、どちらも前に進めない。
「橋をわたるヤギ」というこの話は、幼稚園などで、譲り合いや相手を思いやる気持ちを教えるときの教材とされているものだ。しかし道路を見渡すと、この教えを守っている大人は見当たらない。
トゥアンさんはドライバーをはじめて10年、会社はハノイ市チュオンチン通りに面したところにあり、家からも目と鼻の先、暑い日も雨の日もさほど困ることはない。
しかし、彼が幸せだと感じたことはいまだかつてない。お客さんには決まって、どうか予約の1時間前までには電話をください、朝や夕方のラッシュアワーには2?3時間前にお願いしますと頼み込んでいる。
チュオンチン通りからメリアホテルまではわずか数キロ。しかしなぜか、ハイフォンに行くのと同じくらいの時間がかかる。
トゥアンさんの家と会社があるのはガートゥーソー交差点。ここは非常に特異な交差点で、昔から小さな道が入り組み、混雑していた。
しかし住宅を立ち退かせ、歩道橋や新しい道路を整備した今も状況は変わらない。地域住民は朝は早くに家をでなければならず、常に苦痛を受け入れることを余儀なくされるようになった。
道へ出れば、じわじわと車両をかき分け進まねばならない。朝から晩まで我先にと進む人ばかりで、こちらの車線もあちらの車線もなく、反対車線の4分の3まで飛び出し、反対車線の車両は歩道に押しやられる。
まっすぐになど進めず、わずかなスペースを求めジグザグに。ちょっとでも早く進みたいがために、秩序を乱すことで結局数時間かかる。冬は埃まみれ、夏は汗びっしょり、イライラは最高潮に達する。
ここを進む人々は誰もが交通ルールを無視し、文化的な振る舞いをまるで忘れている。渋滞に突入するといかに早く脱出するかということだけに意識を集中し、人を思いやることなどすっかり頭から消えてしまう。
実際は渋滞を解決することはそう難しくない。それには当然、通行する人のマナーが条件だ。マナーさえわきまえていれば、反対車線に侵入したり、周囲の車両の妨げになることをしたりしないだろう。「橋を渡るヤギ」にはならないだろう。道幅を広げるのは難しい。車両の数を減らすこともできない。だが人間は変われる。