ホーチミン市5区在住、アンドン市場の一角で化粧品を販売していたマイさんは、1区に2軒の家を購入していた。
その家は数年後、地価急騰に伴い1軒あたり現在の金相場で約5,000テールの利益をもたらした。1兆ドン(約6,250万ドル)を銀行に預金、毎月10億ドン(約6万2,500ドル)を引き出し買い物に当てているが、個人的な買い物の支出額は毎月3億ドン(約1万8,750ドル)まで、と決めている。
そんな彼女が口にするのは、健康を考え専らウツボやサーモン。週に2回はキロ8,000ドルもする燕の巣のスープを飲む。普段の飲み物は輸入物の韓国の霊芝や日本の海藻を煮出したエキス。
お肌のケアは天然パールのパウダーで、小指の先ほどのカプセルに入ったそれは、1個200万ドン(約125ドル)というお値段だ。
昨今の富裕層の女性達の趣味は海外でのショッピング。以前はタイやシンガポール、マレーシアなど周辺諸国がその舞台だったが、最近ではさらに遠方に足を伸ばす人が増えている。
5区で商売を営むハインさんは、友人らとともに、まるで市場に行くかのような気軽さで海外にショッピングに出かけ、ストレスを発散している。彼女らの眼中に周辺諸国はすでになく、最も近くても上海や香港、遠くはハワイ、サンパウロとなる。ドバイで開かれた、ウインターショッピングフェスティバルに参加したこともあるという。
「偽ブランド品に騙されることもないし、人が持っていない物が手に入るから、海外の方がいいわ。これは、こないだワイキキの免税店で買ったの。有名モデルが使ってたものよ」とハインさんは中古のロレックスを差し出す。価格は2万8,000ドルという。
世界の香水コレクションとともに暮らしているのは、ベトナムではホーチミン市3区に住むフエンさんくらいかもしれない。フランス人と結婚した彼女は、世界に名だたる数々のブランドを持つ夫の国の香水に慣れ親しんだ。
2度目の結婚相手は資産家の日本人。世界を巡る機会に恵まれた彼女は現在、世界で新たに発売される香水は直ちに入手、100種類の香水を嗅ぎ分けられる、ベトナムの「香りの女王」となった。
女性がオーナーという高級車も次々と現れている。だがその価格が語られたのも最初のうちだけ。ダナンで200万ドルの遊覧船を所有する女性の噂が広まると、富裕層のなかでは、自分の価値を知らしめるのに、高級車ではインパクト不足となった。
「高級カフェに車で乗り付け、買い物の話に花を咲かせるのはもう古い。今のインテリ富裕層は郊外の土地を買って、自分が今まで行った土地のイメージを重ね合わせて自分の庭を造ること」とウエンさんは言う。
世界中を旅してきた彼女の郊外の家は、価格にして100万ドルの、アンコール遺跡に使われたものと同じ種類の石でできた壁で囲まれている。
その壁の内側はと言えば、ベトナムの北部、中部、南部それぞれの特色を取り込んだ作りの景観と家屋を持つエリアがある。客が来ると、彼女はその人の出身地のエリアでもてなすのだ。
そんな彼女のペットは、卵を採るための100羽近いダチョウ。友人が遊びに来ると卵を割り、白身は友人の顔にパック、黄身はお茶菓子のプリンに使う。お茶をしながら海外から取り寄せた天体望遠鏡で星を眺め、宇宙の話に花を咲かせるそうだ。
2004年に文化遺産法が改正されてから、ベトナム全土で私営博物館が次々と設立された。しかしアンティークコレクターの間では、これ以前に私営博物館を設立できる可能性があった人はホーチミン市に2人しかいない、と言われている。
このうち1人が9,944点の骨董品を所有するナム・フオンさんだ。彼女は2001年のニューヨーク・ワールドトレードセンターへのテロで、中にあった店舗を失ってしまった。さらに続くイラク戦争で取引先との仕事も滞るばかりだったが、その間も貴重な骨董品の数々が、彼女の資産を存分に証明した。
「70歳を過ぎた私が、多くの骨董品と80カ国の入国印が押されたパスポートの山と共にベトナムギネスブックに載った時、『世界の全てを廻った女性』としてギネスブックに申請しないかと多くの人から言われたわ。でも、もうこの話はいいの。骨董品以外に、私は不動産にも縁があるみたい」とフオンさんは笑う。
彼女は、ホーチミン市は1区、3区、タンビン区、ヴンタウやダラットにヴィラを所有し、ほかに日本やアメリカにも多くの土地を持つ。2003年には、あのアポロ11号が降り立った月面に102ヘクタールの土地を手に入れ、ついにベトナム初の「宇宙市民」となった。さらに2006年には、火星上の120ヘクタールの購入契約を交わしている。
フオンさんは現在、ベトナム人建築士を雇い、月面の100ヘクタールにフーミーフンのような新都市を造成する計画を立てている。残る2ヘクタールは自分の別荘建設に当てる予定だ。「でも、ホーチミン市の資源環境局には登録を断られたのよね。中国の役所は、私のアイデアと所有証明書を出したら、即OKだったのに」。
さらに真面目な顔でこう語る。「ベトナムは絶対にこれから裕福になるわ。その頃には地球上に家を持つなんて当たり前、宇宙の家こそ価値ある財産よ。そうなったら、200ヘクタールぐらいじゃ、とても足りないかもね」。