渋滞というのは面白い。周りを見渡せば誰も焦っている様子はない。仕事に遅刻しても正当な理由になるからだ。
きれいな人の近くに停まれば、見つめていても無礼だと責められることはなく、甘い言葉をかけることもできる。
モデルになりたい人にはいいチャンスだ。おへそや背中など様々な場所をじっくりアピールでき、マスクをずらして笑顔をのぞかせるのもいいかもしれない。
携帯電話をかけている人も多い。会話は甘い誘惑や罵倒、すねたり値切ったりと様々だ。自動車に乗る人ならクーラーのきいた車内で、帰宅中にお気に入りの音楽に没頭し、いつの間にか渋滞がなくなっていたということも。将来はパソコンや電話、秘書まで備えた移動式オフィスなどというものも登場するかもしれない。
歩道ではおこわや豆乳を売るおばさんたちが、渋滞にはまった人々を呼び込むチャンスをうかがっている。飲食店の低いイスに座り、下がったズボンからブランド物の下着を自慢する若者も見える。
タイの渋滞は有名で、どんなに空港近くにいても半日前には出かけなければならないという。そんなタイでは病院へ向かう途中に妊婦が車内で出産となるのも日常茶飯事で、毎年300?400人がタクシーで生まれているという。
そのためタイのタクシー運転手はみな、出産に関する講習を受け、車内にはへその緒を切るためのはさみや包帯、消毒用ガーゼ、目薬、耳の消毒薬などを揃えている。
最近は北京でタクシー運転手が、妊婦を病院に送り届けるのに赤信号を無視した。警察は交通法違反で重い罰則を課したが、タクシー会社は勇敢なこの運転手を表彰した。
果たしてベトナムで、運転手に対する出産に関する講習が開かれるのはいつになるだろうか。